freeeの情シス運用に学ぶ端末管理・セキュリティ・TCO最適化
Section titled “freeeの情シス運用に学ぶ端末管理・セキュリティ・TCO最適化”freee株式会社の情シス(IT Produce本部)における業務端末運用は、単に「管理しやすい環境へ統一する」のではなく、以下を同時に実現しようとしている点が非常に参考になる。
- 従業員の生産性と使いやすさ
- セキュリティ
- 情シスの運用効率
- 自動化・セルフサービス化
- 端末のライフサイクル全体を見たTCO(Total Cost of Ownership)の最適化
特に印象的なのは、「管理効率のために利用者へ制約を押しつける」のではなく、利用者の自由度を確保したうえで、MDM、自動化、多層防御、標準化によって運用負荷を吸収していることである。
1. Mac / Windowsを従業員自身が選べる
Section titled “1. Mac / Windowsを従業員自身が選べる”freeeでは、原則として入社時に本人が以下を選択できる。
- Mac
- Windows
- 日本語配列キーボード
- 英語配列キーボード
端末を一律に統一するのではなく、従業員が使い慣れた環境を選べるようにすることで、入社直後から本来の業務へ集中しやすくしている。
一方で、すべてを自由選択にしているわけではない。
たとえば、外部委託先のコールセンターなどではChromebookを指定する場合がある。
理由は以下。
- 端末内にデータを残さない運用を行いやすい
- セキュリティを確保しやすい
- 比較的低コストで導入できる
- 故障時の一時貸出端末としても利用しやすい
「従業員の選択を尊重する領域」と「セキュリティやコストの観点から会社が指定する領域」を分けている。
端末の完全統一による管理効率だけを追求せず、従業員体験と運用効率のバランスを取っている点が重要。
2. OSごとに最適なMDMを使い分ける
Section titled “2. OSごとに最適なMDMを使い分ける”freeeでは、複数OSを1つのMDMへ無理に統合するのではなく、OSごとに適した管理基盤を採用している。
| OS | 管理ツール |
|---|---|
| macOS | Jamf Pro |
| Windows | Microsoft Intune |
| ChromeOS | Googleの標準管理ツール |
Macについてはさらに以下を組み合わせている。
- Apple Business
- Jamf Connect
Jamf Connectにより、会社のアカウントIDとMacのログインを連係し、初期セットアップ時の認証も簡素化している。
「ツールを1つに統一すること」自体を目的にしていない。
各OSに対して最適な管理機能を利用できることを優先している。
これはマルチOS環境を運用する場合の重要な考え方である。
3. キッティングを情シスから利用者へ移す
Section titled “3. キッティングを情シスから利用者へ移す”以前は、情シス側で端末をキッティングしてから新入社員へ渡していた。
設定やアプリ配布そのものは自動化されていたものの、処理が途中で止まっていないかを確認し、完了まで見守る必要があった。
現在は、新入社員自身が入社時のオリエンテーション中に端末をセットアップする方式へ変更している。
利用者は画面の案内に沿って操作し、必要な以下の処理は自動的に適用される。
- 端末設定
- セキュリティポリシー
- 業務アプリ
- 認証設定
- 情シスのキッティング作業を大幅に削減
- 入社人数が増えてもスケールしやすい
- 端末発送後のリモートセットアップへ発展させやすい
- 利用者自身がセットアップするため、端末利用開始までの流れが分かりやすい
重要な考え方
Section titled “重要な考え方”自動化するだけでなく、「誰が作業するか」も見直している。
情シスが自動化処理を監視する運用から、利用者自身がセルフサービスで完結できる運用へ移行している点が優れている。
4. 端末・認証・ネットワークを多層で守る
Section titled “4. 端末・認証・ネットワークを多層で守る”EDRにはPalo Alto NetworksのCortexを採用。
さらに以下を組み合わせている。
- MDM
- EDR
- OneLogin
- クラウド型VPN
- OS標準のセキュリティ機能
- クラウドサービス中心の業務環境
MacとWindowsでMDMは異なるが、セキュリティ全体については共通化できる部分を共通化している。
考え方としては、
- Endpoint
- Identity
- Network
の各レイヤーに防御を配置する多層防御(Defense in Depth) である。
また、業務の多くをGoogle Workspaceなどのクラウドサービスで完結させ、ローカル端末へデータを残す場面を減らしている。
一時的にデスクトップやダウンロードフォルダへ保存されたファイルも、再起動時に自動削除する運用が採用されている。
セキュリティ製品を導入するだけではなく、
- 端末
- ID
- ネットワーク
- データ保存方法
まで含めて設計している。
5. OSアップデートを「利用者へのお願い」にしない
Section titled “5. OSアップデートを「利用者へのお願い」にしない”Windows
Section titled “Windows”Microsoft Intuneを利用してOSアップデートを自動化。
以前はSlackでアップデートを案内し、未対応者へ個別確認していた。
現在はJamf Proのブループリント機能を利用し、期限までに更新されなかったMacに対してアップデートを強制適用し、自動再起動させる運用へ変更している。
また、freeeではサポート対象OSを一定範囲に限定し、古いOSを使い続けない運用を徹底している。
セキュリティ運用を「社員が対応してくれること」に依存させない。
情シスからのお願いやSlack通知ではなく、MDMで技術的に統制する。
これは大規模な端末管理では非常に重要。
6. メジャーOSアップデートは段階的に展開する
Section titled “6. メジャーOSアップデートは段階的に展開する”OSのメジャーバージョンが公開されても、すぐに全社員へ適用しない。
まず検証用端末で確認する。
主な確認対象は以下。
- 社内システム
- 業務アプリ
- VPN
- 認証
- MDM
- EDR
- 周辺機器
- 業務プロセスへの影響
問題がないことを確認してから全社展開する。
これはMacだけでなくWindowsでも共通の運用。
OS Release ↓Test Devices ↓Compatibility Test ↓Approval ↓Phased Deployment ↓Mandatory Update7. アプリ配布もセルフサービス化する
Section titled “7. アプリ配布もセルフサービス化する”MacではJamf Proの「Self Service+」などを活用し、従業員自身が必要なアプリを選択してインストールできる環境を目指している。
会社が承認したアプリのカタログを用意し、その中から利用者が必要なものを自分でインストールする。
Employee ↓ RequestIT Help Desk ↓ PushDeviceセルフサービス
Section titled “セルフサービス”Approved App Catalog ↓ Employee ↓ Install- ヘルプデスクへの依頼削減
- アプリ導入までの待ち時間削減
- シャドーIT抑制
- 承認済みソフトウェアの標準化
- 情シスの運用負荷削減
端末ライフサイクルとTCO
Section titled “端末ライフサイクルとTCO”8. 端末価格ではなくTCOで判断する
Section titled “8. 端末価格ではなくTCOで判断する”freeeでは端末の評価を単純な購入価格だけではなく、TCOで考えている。
TCOには以下を含めて考える必要がある。
TCO = Purchase Cost + Management Cost + Support Cost + Failure / Repair Cost + Help Desk Cost + Replacement Cost - Resale Value端末価格が多少高くても、
- 長期間利用できる
- 故障が少ない
- バッテリー寿命が長い
- 管理工数が少ない
- 中古売却価格が高い
のであれば、TCOでは安くなる可能性がある。
9. 更新周期を固定ルールではなく実態に合わせて見直す
Section titled “9. 更新周期を固定ルールではなく実態に合わせて見直す”従来の更新周期は以下だった。
| 端末 | 更新周期 |
|---|---|
| Mac(エンジニア) | 2年 |
| Mac(非エンジニア) | 3年 |
| Windows | 3年 |
Appleシリコン搭載Macでは、4年程度利用しても性能やバッテリーの面で実用性を維持できる感触が得られたため、更新周期を見直している。
「3年経ったから交換する」のではなく、
- 性能
- バッテリー
- 故障率
- OSサポート
- セキュリティ
- 利用者の業務要件
を見ながらライフサイクルを決める。
10. リースではなく購入して使い切る
Section titled “10. リースではなく購入して使い切る”freeeでは業務端末をリースではなく購入している。
リースでは契約期間に合わせて返却時期が固定されるが、購入であれば端末の状態に応じて柔軟に利用期間を調整できる。
購入方式のメリット
Section titled “購入方式のメリット”- 利用期間を柔軟に延長できる
- 状態のよい端末を長く利用できる
- 退職者端末を再利用できる
- 必要に応じて途中売却できる
- リセールバリューを回収できる
11. 退職者端末を再利用する
Section titled “11. 退職者端末を再利用する”退職者から返却された端末は、
- 回収
- 清掃
- 初期化
- 再セットアップ
- 次の利用者へ再配布
という流れで再利用する。
端末を「1人に1台買って終わり」と考えず、会社のIT資産として循環利用している。
12. 最後は中古市場へ売却する
Section titled “12. 最後は中古市場へ売却する”社内で完全に利用を終えた端末も、すぐ廃棄するのではなく、売却可能な端末は中古市場へ売却する。
特にMacはリセールバリューが高いため、売却額をTCOから差し引いて考えることができる。
Net Device Cost = Purchase Price + Operating Cost - Resale Value端末の購入判断時に「出口価格」まで考える点が重要。
13. 保守サービスも固定化しない
Section titled “13. 保守サービスも固定化しない”以前はAppleCare+を利用していたが、その後、自社の利用実態により合う販売代理店の保守サービスへ変更している。
端末だけでなく、保守契約についても定期的に見直している。
freeeの情シス運用で特に参考になる点
Section titled “freeeの情シス運用で特に参考になる点”1. ユーザ体験を犠牲にしない
Section titled “1. ユーザ体験を犠牲にしない”管理しやすさのために端末を統一するのではなく、利用者が働きやすいことを重視している。
2. 自動化だけでなくセルフサービス化する
Section titled “2. 自動化だけでなくセルフサービス化する”情シスが自動処理を実行するのではなく、利用者自身が安全に実行できる仕組みへ移行している。
例:
- セルフキッティング
- アプリのセルフインストール
3. 人に依存する運用をシステム化する
Section titled “3. 人に依存する運用をシステム化する”Slackで依頼↓未対応者を確認↓個別催促ではなく、
Policy↓MDM↓Deadline↓Mandatory Updateへ変えている。
4. OSごとの最適解を採用する
Section titled “4. OSごとの最適解を採用する”すべてを1製品に統一することより、各OSで最も適した管理方法を選ぶ。
5. Security by Layers
Section titled “5. Security by Layers”Endpoint / Identity / Network / Dataをそれぞれ保護し、1つの製品へ依存しない。
6. 端末のライフサイクル全体を最適化する
Section titled “6. 端末のライフサイクル全体を最適化する”Purchase ↓Provisioning ↓Operation ↓Reuse ↓Resaleこの全体をTCOとして管理する。
自社へ応用する場合のチェックリスト
Section titled “自社へ応用する場合のチェックリスト”Device
Section titled “Device”- Mac / WindowsのEmployee Choiceを導入できるか
- 職種ごとの標準モデルを定義する
- Chromebookなど用途限定端末を検討する
- キーボード配列など利用者選択項目を定義する
- macOS:Jamf Pro等
- Windows:Microsoft Intune等
- ChromeOS:Google Admin Console等
- OSごとに管理ポリシーを標準化する
Identity
Section titled “Identity”- IdPを統一する
- 端末ログインと会社IDを連係する
- SSOを拡大する
- MFA / Passkeyを検討する
Endpoint Security
Section titled “Endpoint Security”- EDRを導入する
- ローカルデータ保存を最小化する
- ディスク暗号化を強制する
- 端末紛失時のリモートロック・ワイプを用意する
Provisioning
Section titled “Provisioning”- Zero Touch Deploymentを目指す
- セルフキッティング化する
- 入社オリエンテーションへ端末セットアップを組み込む
Patch Management
Section titled “Patch Management”- OSアップデートをMDMで管理する
- アップデート期限を設定する
- 期限超過端末へ強制アップデートを適用する
- メジャーアップデート前に検証期間を設ける
Application Management
Section titled “Application Management”- 承認済みアプリ一覧を定義する
- セルフサービス型アプリカタログを作る
- 不要な個別インストール依頼を削減する
Lifecycle / TCO
Section titled “Lifecycle / TCO”- 端末更新年数を固定値だけで決めない
- 故障率を記録する
- バッテリー状態を管理する
- 退職者端末を再利用する
- 売却価格を含めてTCOを計算する
- 購入とリースをTCOで比較する
- 保守契約を定期的に見直す
freeeの端末運用で最も参考になるのは、特定の製品を使っていることそのものではない。
重要なのは、以下の設計思想である。
利用者の自由度を確保しながら、管理・セキュリティ・自動化の仕組みを裏側で整備する。
そして、
人が頑張る運用を減らし、ポリシーとシステムによって自動的に正しい状態へ収束させる。
さらに端末を、
購入 → セットアップ → 利用 → 再利用 → 売却というライフサイクル全体で管理し、TCOを最適化している。
情シスの役割を単なる「PC管理」ではなく、
Employee Experience + Security + Automation + Cost Optimization
として捉えている点が、非常に参考になる。
-
MacとWinの混在にも価値を見出す。freeeが3500台もの業務端末をあえて統一しない理由
https://macfan.book.mynavi.jp/business/article/112562/ -
MacとWinの混在環境における端末管理のベストプラクティス。freee株式会社のMDM、OSアップデート、キッティングの裏側
https://macfan.book.mynavi.jp/business/article/112584/ -
MacはWinよりTCOに優れている。管理費用、故障対応、買い替えサイクル、リセールバリューほか、端末価格だけでは測れない本当のコスト
https://macfan.book.mynavi.jp/business/article/112596/
このメモは上記記事を参考に、情シス・Corporate IT運用の観点から要点を再構成したもの。